ページ

2016年8月26日金曜日

『本の雑誌』6月号の新刊めったくたガイド書きました

『本の雑誌』2016年6月号の新刊めったくたガイドを書きました。
http://www.webdoku.jp/
取り上げた作品は以下のとおりです。

ジュリー・オオツカ『屋根裏の仏さま』岩本正恵・小竹由美子訳、新潮社。
ル・クレジオ『ラガ』管啓次郎訳、岩波書店。
町田康『リフォームの爆発』幻冬舎。

オオツカの『屋根裏の仏さま』は、戦前アメリカに渡った日本人の女性たちがどんなに辛い人生をおくったかを綴った作品です。特徴的なのは、特定の個人に焦点を当てるのではなく、集団としての彼女たちという視点から書かれていることです。一人になったり複数になったりしながら、小説と歴史の間の語りが続いていきます。
訳者の岩本正恵さんは数年前に亡くなりました。とても素晴らしい人格で、実力も高かった方で、翻訳界にとっては大きな損失でした。僕もずいぶん親切にしていただきました。この作品では小竹由美子さんが引き継ぐ形で作品を完成させていらっしゃいます。ありがたいことです。
ル・クレジオの作品は最近とてもいいですね。バヌアツを舞台に、南太平洋で行われた奴隷制などの歴史が語られていきます。これはエッセイと歴史、小説の間のような作品ですね。ノーベル賞受賞後も進化し続けるなんて凄すぎます。
町田康さんの『リフォームの爆発』も面白かったです。小説になり、建築エッセイになりと、ジャンルを問わない文章は常に魅力的です。今回は現実から浮き上がった「真理」が文学を殺してしまう、という町田さんの主張について書きました。こういうことをおっしゃっているのを見ると、人としても書き手としても本当に信頼できる方だなあ、と思います。