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2016年1月5日火曜日

『本の雑誌』1月号新刊めったくたガイド書きました

『本の雑誌』2016年1月号の新刊めったくたをガイド書きました。
http://www.webdoku.jp/
扱った本は以下のとおりです。

ミシェル・ウェルベック『服従』大塚桃訳、河出書房新社。
キルメン・ウリベ『ムシェ 小さな英雄の物語』金子奈美訳、白水社。
作者未詳『虫めづる姫君 堤中納言物語』蜂飼耳訳、光文社古典新訳文庫。

ウェルベックの『服従』は時事的な絡みもあり話題になっていますが、読んでみればちゃんとした文学作品になっています。現代社会において年老い、疲れ、しかも信仰の助けも得られない現代人がどうやって心の平安を得たらいいのか、という問いかけは普遍的なものなのではないでしょうか。人間の弱さに焦点を当てた鋭い作品です。
ウリベの『ムシェ』には驚きました。バスク語で、こんな現代文学が書かれているんですね。しかもたくさんの言語に訳されてもいます。英語で書かなければグローバルにはなれない、という言説が嘘であることがはっきりとわかります。人間の気持ちをしっかりと書ければ、そして独特の経験をつかまえることができれば、どんな言語でも対等な力を持ち得るんです。たった60万人しか話者がいない言葉をあえて使うウリベが素晴らしい。
『虫めづる姫君』はとてもいいですね。古代のあえかで美しい人々の心情が伝わってきます。しかも蜂飼耳さんの訳文がとてもいいですね。なんとなく感情的な繋がりを感じることのできる外国、としての古典時代にも興味が出てきました。