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2015年9月24日木曜日

田中千智さんの展覧会があります

10月2日から18日まで、横浜市民ギャラリーで田中千智さんの展覧会があります。
http://ycag.yafjp.org/our_exhibition/new-art-next-2015/
僕も翻訳者の一人として参加したドン・デリーロ『天使エスメラルダ』(新潮社)の表紙の絵を描いた人ですね。一度だけ福岡でお会いしましたが、素敵な方です。絵の実物はどれも大きいそうなので、僕もぜひ見に行こうと思っています。

2015年9月20日日曜日

『本の雑誌』10月号新刊めったくたガイド書きました

『本の雑誌』10月号の新刊めったくたガイドを書きました。
今回取り上げた本は以下の通りです。

チョン・セラン『アンダー・サンダー・テンダー』(吉川凪訳、クオン)
ウーリー・オルレブ『走れ、走って逃げろ』(母袋夏生訳、岩波少年文庫)
エドゥアルド・メンドサ『グルブ消息不明』(柳原孝敦訳、東宣出版)

チョン・セランの『アンダー・サンダー・テンダー』は韓国と北朝鮮の国境に近い町で繰り広げられる、ちょっと懐かしい青春物語です。主人公がドラえもんの弁当箱の話をしたり、登場人物の姉弟が安藤忠雄風の建築に住んでいたりして、急に出てくる日本アイテムにはドキッとさせられます。本当に繊細な物語で、素晴らしい作品だと思います。最近クオンはすごくいい書物を次々と出していますよね。

ウーリー・オルレブ『走れ、走って逃げろ』は少年がナチスの追跡を逃れてポーランドの森に入り込みます。実話が元になっているからでしょうか。表現がリアルで、読んでいで息つく暇もありません。時に親切にしてくれる人もいて、人間の残酷さと美しさがよくわかる作品です。エトガル・ケレット『突然ノックの音が』もそうですけど、母袋さんは素晴らしい作品を訳されていますよね。

エドゥアルド・メンドサ『グルブ消息不明』はスペインの作品で、地球にやってきた宇宙人が行方不明になった相棒を探して回る、というものです。舞台はバルセロナで、現代のスペインをポップに描いています。中南米の作品に比べてスペインのものはあんまり読んでいないんですけど、これはすごく面白いですよね。どうやってこういう作品を見つけてくるんでしょうか。素敵です。

2015年9月19日土曜日

イーユン・リー『独りでいるより優しくて』書評書きました

『FIGARO Japon』2015年11月号にイーユン・リー『独りでいるより優しくて』の書評を書きました。
http://madamefigaro.jp/
鋭い描写で定評のあるイーユン・リーですが、新作の本書は、大学生の毒殺事件を巡る若者たちの心理劇になっています。それが、天安門事件後の現代中国をどう捉えるかにまで繋がっていくところが読みどころです。
それにしても、前作『黄金の少年、エメラルドの少女』もそうでしたが、イーユン・リーは本当にいい作家ですね。来年3月に開催される第三回の東京国際文芸フェスティバルには、イーユン・リーもいらっしゃるようです。今から楽しみにしています。
http://tokyolitfest.com/

2015年9月13日日曜日

ジェイ・ルービン『日々の光』書評書きました

本日2015年9月13日付けの日本経済新聞書評欄にジェイ・ルービン『日々の光』の書評書きました。
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO91677940S5A910C1MY6000/
第二次大戦における日系人の強制収容をテーマに、日米の様々な人々が登場する小説になっています。ジェイ・ルービンは村上春樹などの翻訳者として、その優れた訳で知られていますが、小説家としても優秀なことがわかります。人種主義者の白人牧師、戦争に協力した日本の技師、苦しむ日系人の女性たちなど、様々に隔たった人々を内側から掴み、読者に伝えることに成功しています。主人公が本当の記憶を辿っていく過程は、まるでミステリーのように読者を引き込まずにはいられません。

2015年9月12日土曜日

岩城けい『Masato』書評書きました

『すばる』2015年10月号に岩城けい『Masato』の書評を書きました。
以下のリンクで全文を読むことができます。
http://subaru.shueisha.co.jp/books/1510_2.html
これほど日本から外国に同化していく過程を正確に捉えた作品は珍しいのではないでしょうか。英語圏の文化に抵抗する親と、その親に不満を抱く子供というのは、外国に移住した家族では普通の光景でしょうが、それが日本語で詳細に記されたというのは大きな意味があることだと思います。
英語が支配的な環境で、子供が何を行っているのか親が聞き取れなくなると、力関係まで逆転してしまうというのが恐ろしいところです。こういうのは、ジュノ・ディアスなど移民文学にはよく登場するモチーフですよね。
前作『さようなら、オレンジ』(ちくま文庫で今月出ました)もすごく面白かったのですが、今回の作品は文章の質も格段に向上して、読んでいて楽しい作品になっています。数年でこれほどの進化を遂げるというのは素晴らしい。
日本で普通に文学と考えられている作品とは趣は異なりますが、本作もまたすごい達成だと思います。