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2014年3月28日金曜日

ゴマブッ子『あの女』(ヴィレッジブックス文庫)

努力すればなんでもかなうと学生時代に頑張り続け、正直に真面目に生きていればいいことがあると信じてきた誠実で純情な女性が、受験も仕事もどうにかなったのに、いざ恋愛という局面になったとき、男という得体の知れない、何をしでかすか予想もできない異文化人を前にして傷つく。どうしてこんなにがんばっているのに愛してくれないの? これでもまだがんばりが足りないっていうの?
おそらくそれは、日本において女性と男性の文化が極端に隔たったまま発達していて、互いの言語に習熟しないと基礎的なコミュニケーションすら不可能だからだ。そこにゴマブッ子が介入する。ゲイである彼は、女性に厳しい言葉を浴びせかけているように見せかけながら、丁寧に男性の論理を女性の論理に翻訳してみせる。ほら、不可解な男性の反応も、こうしたら理解できるでしょ。その愛に裏打ちされた言葉はほとんど菩薩行だ。しかも言葉のフットワークが軽い軽い。
能町みね子さんの本を読んでいても思うが、男女二つの文化をフィールドワークし、双方向に翻訳できるという人材は貴重だ。一つの言語しか知らない人は、他の言語を持つ人の存在すら信じられない。しかもそれが男女の場合、見かけ上同じ日本語を話す日本人、というふうに見えるからたちが悪い。視点の異動こそ笑いと気付きの源である、という人類学的な智恵を実感させてくれる本。