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2014年3月27日木曜日

神田橋條治『精神科養生のコツ』(岩崎学術出版社)

頑張ることは無条件にいいことだ、そして上手くいかないのは十分にがんばっていないからだ、という現代日本を蝕む思考法を徹底して破壊する本。これを読んだときにものすごい解放感を僕は感じた。
神田橋による「頑張る」の定義はこうだ。「「頑張る」ということばの意味は、「こころの活動つまり目的のために、道具である脳を含めた身体に無理をさせる」ということです」 (43)。自分が「したい」と思うことより「すべき」と思うことを優先させ続ける結果、気持ちは自分の外側に向き続ける一方、自分の中の感覚はどんどん鈍くなってしまう。
自分でも気づかぬまま、限りない疲労が蓄積されたその先は、もちろん病気が待っている。なぜなら、脳の働きを含めた人間の身体能力は限界があるからだ。資本主義の要求する無限の拡大について行ける人など、この地球上には一人もいない。「「自分を鍛える」などと言っているときに、「気持ちがいい」「気持ちが悪い」の感じを失っていると、やりすぎて心身を痛めてしまうのです」(33)。
そこで登場するのが養生である。養生とは何か。自分の内側の「気持ちがいい」という感覚を掴むこと。そして、「気持ちが悪い」ことをせざるを得ないときも、そのことを意識しながら、どうしたらできるだけ短時間でそれを切り抜けられるか考えることだ。もちろん鈍くなってしまった「気持ちがいい」と感じる感覚を取り戻すにはトレーニングが必要である。具体的には本書を参照してほしい。
体を道具として見て、無理をさせて頑張ることで物事をなし遂げるというやり方には限界がある。むしろ体と対話しながら、「気持ちがいい」やり方を探り続けること。その方がきっと遠くに行けるだろう。
欠点を探すのではなく、できたことを褒め合う。人に愛されようとするのではなく、自分から愛を与え合う。good job!と声をかけ合って生きてもいいじゃないか。自他のあら探しばっかりの人生はもういいよ。もう十分に僕らは頑張ってきたのだから。