ページ

2014年3月17日月曜日

江國香織『江國香織とっておき作品集』(マガジンハウス)

収録されているデビュー作の中篇「409ラドクリフ」がとにかく素晴らしい。舞台はアメリカの大学で、日本から留学している女性とルームメイトのハンガリー人、そこに恋愛相手のナイジェリア人などが絡む。作品に流れている雰囲気、匂い、感覚は完全にアメリカで、実は江國香織は日本語でアメリカ文学を書いて作家になったのだということがよくわかる。彼女はこの作品でフェミナ賞を受賞した。
お互い日本に恋人がいるのに、異国での暮らしの寂しさに耐えきれず求め会ってしまう男女なんて、ジュノ・ディアス「もう一つの人生を、もう一度」の主人公が語る名言「どんな愛もこの海を越えることはできない」を思わせる。他にも、人種を越えた困難な愛、国籍を取るための偽装結婚、日本からやってきた人が過度に日本的に見えて少しひいてしまう感じなど、アメリカに住んだことがある人にすればどれも自分で感じた、あるいは見聞きしたことはあるようなトピックが次々出てくる。僕も読みながら、ロサンゼルスに住んでいた10年前の感覚に戻ってしまった。
今の洗練された江國香織とはまた違う魅力が味わえる。読者により入手しやすいかたちで再刊されることを強く願う。