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2014年3月14日金曜日

永井一郎『朗読のススメ』 (新潮文庫)

波平さんの声で知られた永井一郎の名著。スタッフの評価も観客の評価も忘れて、リラックスしながら、ただひたすら伝えたいイメージに集中する。そしてそれを繊細に表現する。「とちりたくない。上手に読みたい。笑われたくない。ほめられたい。感動させたい。自分、自分、自分。自分の欲望しか見えない状態。これではプレッシャー地獄です」(24)。自分地獄から出たとき初めて芸の世界が開けてくるのだ。
これは朗読だけでなく、翻訳にも、執筆にも、いや、どんな仕事にも当てはまることなんじゃないか。深いシンプルさが心を打つ。「自分を捨ててください。よいものも悪いものもみんな捨ててしまえばいい。必要なものはいつでも取り戻せます。」(59)もはや禅だ。我執の断捨離だ。
「技術は手に入れろ。手に入れたら忘れろ。」(157)は至言である。まさに現代の花伝書ではないか。